雲と私情

創作品

花弁

起きて、部屋に誰も居ないのが辛い。寝起きが辛いのはそのためだろう。

 

少し忙しい仕事が大分忙しくなって、この夏も疾うに過ぎるのだと思えば、信じられないくらいの日光を浴びて帰宅しても、まぁ、酷く眠れる。日に日に家に居られる時間も減って行くから、眠ることの価値が自然と高くなる。寝ないのは嘘だ。殊に、所有欲を満たしたいという目的が、寝ること以外に付いて回る限りは。

あからさまに排他的に生きるのが最近は楽だと思っている。しかしどうにも、嘯いたみたいに、他人に気を使っている振りをして、排他的に生きるような輩も世間には居るようだ。僕はそういうのを凄く傲慢だと思うし、しかしそれとは一線を画し、一番の傲慢は自分だと嘲る自分を、やはり一番に、救いようの無い奴だと、そう思う訳である。

 

自室に誰かが居た憶えは無いが、誰かが居る部屋で起きたような憶えは薄らとある。

それは今日の事でも昨日の事でも無かったと思うが、夢みたく遠いんだから、その記憶はもう夢と同義なんだろう。

僕はその夢を、夢うつつにずっと見ている。うつつも何もわからない。考える余裕は剥奪されたと言うより、元から所有してはいないのだ。だから、本当に夢でも見るみたく、匂いや記憶ばかりが鼻先をかすめる。具体性の無い物ばかりだけれど。

 

満たされたいと言うよりも、満たされないと言う感じ方が欲しい。満たされることの正体が僕には掴めないから、その渇望すら手に入らない。

 

昔は帰りたいと思うことが多くあったが、最近は、戻りたいと良く思うようになった。時間の話ではない。後戻りとかそういうことではなく、たんに、真面な暮らしに戻りたいのだ。帰らせて欲しいんじゃなく、返して欲しい。戻らない何かを、今損している全てを、僕は返して欲しい。罪の対価に罰があるように、必ず返ってくるような、そういう痛ましい事をしたい。

 

もしかするとそれすらも、それだけがこの匂いの正体だと、そう言えば満更でもなく、過言にもならない、そうなのかもしれない。