雲と私情

創作品

反逆者

「七夕の物語が、俺は気に食わない。天帝が二人を引き離した意図も、年に一度しか会えない規則も、雨が降った年には会うことすら出来ない設定も、俺は甚だ気に食わない。そもそもの話、ただ仕事をしなかっただけで離別しなければならないなんて、道理が通っていない。仮に、それが正義だとして、それが秩序だとして、そんなものに従わなければならない理由など、俺は一つも無いように思う。俺が彦星なら、天帝を殺して宇宙そのものに反逆する。俺が織姫なら、親も家業も捨てて遠くへと逃げる。一度仕事をしなかっただけで夫婦の間を引き離すような奴も、そんな大黒柱の下にある家も、どうせ碌な物じゃない。貧しくても、人並み以下でも、二人で最低限度の生活を得られる見込みがあるなら、見込みすらなかろうと、俺は逢い引きの果てに逃亡を果たすだろう。過去に誤りがあったとして、その後の日々の殆どを労働に費やさねばならないことに、正当な理由はないし、そんな不条理を命じた天帝の心境なんて知った事じゃない。一年に一度などと嘯かれ、その日だけを希望に仕事に明け暮れ、絞り取られ続けるだけの人生なんて、俺には少しも肯定できない。夕立に打たれ、川に流されてでも、俺は良心ごと腐り果てた天帝を殺し、連れ合いだけを引き連れて、本当の意味で余生を生きるために、遠くへ遠くへと逃げて行く。」